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東京高等裁判所 昭和62年(う)757号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を禁錮六月に処する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人鈴木守が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これをここに引用する。

所論は、量刑不当を主張するものであるが、これに対する判断に先立ち、職権をもつて調査するに、原判決は、原判示第一の所為につき道路交通法一一八条一項一号、六四条を、原判示第二の所為につき刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号を各適用したうえ、前者の罪につき懲役刑を、後者の罪につき禁錮刑をそれぞれ選択し、併合罪加重につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条を適用しているところ、まず、道路交通法一一八条は昭和六一年法律第六三号(「道路交通法の一部を改正する法律」昭和六二年四月一日施行)によつて改正されて刑の変更があり、右改正法附則三項は、同法の施行前にした行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨規定しているので、原判決の宣告日である昭和六二年五月七日の時点においては、右改正法施行前の行為である原判示第一の所為については右改正法附則により改正前の道路交通法が適用さるべきものであるにもかかわらず、原判決は、原判示第一の所為に対する法令の適用として単に道路交通法と記載するのみであつて、その判文からは、改正前の同法を適用する趣旨でありながら右改正法附則により改正前の道路交通法を適用する旨の摘示を遺脱したものか、あるいは、誤つて改正後の同法を適用したものか、いずれとも明らかではないし、この点を別としても、本件における併合罪加重においては、処断刑の長期は刑法四七条但書により五年六月にとどまるにもかかわらず、原判決が同条但書の適用を遺脱したのは、法律の適用を誤つたものというべく、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。

よつて、論旨に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書により、当裁判所において、更に自ら判決する。

原判決の認定した罪となるべき事実に法令を適用すると、被告人の原判示第一の所為は、昭和六一年法律第六三号(道路交通法の一部を改正する法律)附則三項により同法による改正前の道路交通法一一八条一項一号、六四条に、同第二の所為は刑法二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当するところ、各所定刑中右第一の罪につき懲役刑を、右第二の罪につき禁錮刑をそれぞれ選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、重い右第二の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきところ、本件は、被告人が無免許で自動車を運転し、前方注視を怠つた過失により自車を対向車線にはみださせて対向車と正面衝突し、同車の運転者に傷害を負わせたという道路交通法違反、業務上過失傷害の事犯であり、その過失の態様は基本的な注意義務の違反であること、被害者の傷害の程度はかなり重いこと、被告人には昭和五七年以降無免許運転の罪による前科三犯があり、そのうち先の二犯は罰金前科であるが、最後のものは昭和五九年八月一五日千葉地方裁判所において懲役六月、三年間執行猶予に処せられた前科であつて、本件は右執行猶予期間中の犯行であること等の事情に照らせば、その犯情は軽視できないが、他面、被害者との間に示談が成立していること、被告人も本件事故により傷害を負つたこと、被告人が反省していること、その他被告人の家庭の状況等被告人に有利な事情もあるので、これらを斟酌したうえ、被告人を禁錮六月に処し、原審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官内藤丈夫 裁判官本吉邦夫 裁判官稲田輝明)

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